diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第三話 ホテルのオーナー

私は経営者家庭に生まれた。父は八ツ星ホテルのオーナー。母は七ツ星ホテルのオーナー。そしてこの家の長男として生まれた私も今では五つ星ホテルのオーナーだ。次男はこの堅苦しい家庭のせいか、高校の時にグレてしまい、両親の意向に背き、今では三ツ星イタリアンのシェフをしている。

 

うちの五つ星ホテルに泊まりに来るのは、最低ランクで芸能人だ。国宝の人物や、総理大臣が泊まりに来るのが基本となっている。他国の大統領などが来日した時もうちに泊まる。両親のホテルは既に閉業されている為、実質、私のホテルが日本一なのだ。

 

そんな私にも悩みがある。若い世代のお客様が泊まりに来ないことだ。うちのホテルに泊まりに来る方は格式ある方々で、それもあり年齢層が高い。そのような方を相手に接客するのだから、ベテランでスキルの高い従業員が多数働いている。お客様もスタッフも私自身も若くない。そう、ホテルの雰囲気に活気がないのだ。もちろん、気品や趣はある。しかし、もっとこうエネルギーが感じられるホテルにしたいのだ。どうしたものだろうか。そんなことを思いながら今日も家路についた。

 

私は平日はお酒を飲まないことにしているのだが、近頃は悩みのせいか、ついお酒を飲んでしまう。まあまあな深酒だ。うーん。どうすればホテルに活気をプラスできるのか、、、。私の凝り固まった脳で考えても無駄か。そう思い、バカラに入ったシーバスリーガルの18年を飲み干して眠りについた。

 

いつもの朝が来た。出勤するとホテルに活気が満ち溢れていた。なぜだ?こんなに活気のあるホテルじゃなかったのに、なぜ急にこうなった。普段は落ち着き払ったスタッフたちからも活気が感じられる。どうしたんだ、と疑問になりながら私はデスクに向かう。前日、片付けていかなかった代償で、デスクの上は散らかっている。書類をまとめて、デスクトップに貼られている付箋を整理したところで、いつものように事務の芳川にコーヒーを頼んだ。芳川は入社5年目の某有名女子大卒業のエリートだ。うちのスタッフの中では1番若い。誰に向けてなのかも分からない芳川の紹介を頭の中でしていたら、芳川がマグカップを持ってきた。早いな。ほんとにコーヒー淹れたのか?缶コーヒーでも移し替えたんじゃないのかというレベル。まあいいか。持ってきてくれるだけ有難い。「オーナー、どうぞ」といつも通り差し出してくる。感謝を伝え、今日のスケジュールを秘書の芳田と確認し始める。芳川は自分のデスクに戻った。芳田は淡々とスケジュールを読み上げる。全く読み上げるスピードが早すぎるのだ。こんなんで理解できる人がいるのだろうか。と思いながらもう8年が経つ。芳田は良い奴なのだ。芳田は某有名私立大学を首席で卒業している。しかも女性で首席卒業は異例らしい。まあそんなことはどうでもいい。芳川が持ってきてくれたマグカップを口元に運び、飲む。ん!?なんだこれ、、、。まずコーヒーじゃない。そして、炭酸飲料だ。しかもマグカップに入ってるくせに冷たい。一つ一つ謎をとこう。まずコーヒーではなく何なのか。エナジードリンクの味がする。なぜ炭酸飲料なのか。エナジードリンクだから。なぜ冷たい?エナジードリンクだからだ。

 

エナジードリンクじゃないかこれは!!!

芳川を直ぐに呼んだ。芳田に呼ばせた。

なぜ、コーヒーを頼んだのに、エナジードリンクが出てくる?と問うと、芳川は一言。

「ホテルに活気が欲しいからです」

な、な、、なんと。なんという盲点。

朝、皆がデスクで飲むのがコーヒーというのはマンネリ気味だったのか!?コーヒーからは活気が得られないのか!?やられた。まさかスタッフの飲み物がコーヒーからエナジードリンクに変わっただけで、今朝のようにホテルに活気が満ち溢れるのか?すごすぎる。芳川も凄いが、エナジードリンクが凄すぎる。いや、それを持ってきた芳田が凄いのか。今日は高級寿司でも奢ってやろう。

 

活気に満ち溢れるスタッフを見ながらする仕事は非常に捗った。午前だけで、3日分の仕事が済んだ。さあ、ランチでも食べに行こう。奮発して、フレンチでも食べに行こう。上着を羽織り、デスクを離れ、フロントを通りかけた時、有り得ないくらいスタッフに活気が無くなっている。どうした!今朝の活気はどうしたんだ!なぜなんだ!!エナジードリンク飲んだんだろ!?芳川がくれただろ!?!?

 

フロントスタッフの芳村に尋ねた。何故そんなに活気無くなった?すると芳村はこう答えた。「エナジードリンクの効果が切れました」なんと!盲点だった。1度飲めば良いわけじゃないのか!それはそうか!しくじった!今すぐスタッフにエナジードリンクを飲ませなければ!芳川を呼ぼう。みんなにエナジードリンクを配らせよう。芳川を呼ぶために芳田に電話をかけた。すると、覇気のない芳川がやってきた。君もか!君も効果が切れたのか??

「オーナー、エナジードリンクの在庫がありません」なんだと!しかしそれはそうか!うちはエナジードリンク屋さんではない!どうすればいいんだ。分かった。エナジードリンクを作っている会社に連絡して、毎日エナジードリンクを配達させよう。そうしよう。そうと決まればまず芳田に電話だ。芳田!エナジードリンクメーカーに電話をしてくれ!

「ぉ、ぉ、ぉ、お、ーな、ー。、、、えなじー、、」

どうした!!!君も効果が切れたのか??秘書なんだからしっかりしてくれ!

仕方ない。こうなったら、芳田と芳川の分だけでもエナジードリンクを買いに行こう!

駐車場へ急ぎ、自慢のランボルギーニにエンジンをかけ発進した。近くのコンビニへ着いて、エナジードリンクを探す。、、、どれがエナジードリンクなんだ?もう、コンビニなどかれこれ18年来ていない。わからない。凄十?これか?これがエナジードリンクか?いやパッケージで違いそうだ。

そうだ、店員に聞こう。それが一番早い。

「ちょっと店員さん!」

「はい!なんでしょう!?」

「ぁ、ぁ、ぁ、、あのね、、、。ぇ、えなじー、、」

まずい、、エナジードリンクの効果が切れて喋れない、、、このままでは私の五つ星ホテルが、、、、

私は五つ星ホテルがああああ!!!!!!

 

いつもの朝が来た。

今日は変な夢を見た。昨晩飲みすぎたな。

そんなエナジードリンクあったらアカンだろ。

夢でよかった。あとそんなにうちのスタッフの苗字はややこしくない。

さあ、活気よりも、気品と趣のあるホテルに出勤するか。