diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第三十九話 雨は上がったけれど

 

彼女に貸したタオルは、小綺麗な紙袋に入れられて返ってきた。


これを持って下校するのは、少し気恥しいがちょっとした優越感もある。

 

家に着いて気付いたが、手紙も添えられていた。

 


「この間は助かりました。ありがとう。また駅で会ったら話そうね。」


路面電車の駅にびしょ濡れでやってきた彼女にタオルを貸したのがきっかけで、駅で会う度に会話をするようになった。


高校は違うから、普段の生活では会えない。しかし、たまに路面電車の駅で会う。それがちょっとした僕の楽しみになっていた。

 

 


梅雨が明け、カラッとした夏がやって来た。

 


駅で路面電車を待っているだけで汗をかいてしまうほどの暑さ。

彼女も前髪を気にしながら路面電車を待っている。

 


今日は一段と手に汗握る。

 


いわゆるデートのお誘いをしようと決めてきたからだ。

 


路面電車の駅で話せるのはだいたい6分ほど。

路面電車は6分に1度やってくる。

その時間だけでは足りない。話は途切れてしまうけれど、隣にいたいと思ってしまう。

 


迷惑かなと思うから、それを知りたいのもあってのデートのお誘いだ。

 


そう決断してきたのはいいものの、セリフを考えてこなかった。口実がない。

 


そもそも、こうやって毎日駅で話すことにも理由はない。

 


会いたいなら、一緒にいたいなら理由を探さないと。

なんてくさいこと思ったくせに、今日は何も伝えられないまま路面電車に乗ってしまった。

 

 

 

帰宅して落ち込む。こんなに情けないキャラクターではないはずなのに、どんどん滑り落ちて行くような感覚に陥る。しかしこれも悪くない。そう思える。

 

 

部屋に入り、気取って窓から月を眺めてみた。

 

 

 

目を開けていたって彼女の夢を見てしまう。

 


霞んだ月をTシャツで擦って、彼女をもっとハッキリ見たいと思ってしまう。

 


1番光る星を見つけると、彼女を思い浮かべてしまう。

 


胸が痛くて苦しいのは彼女のせいなんだ。

 


今夜もまた眠れない。

 


これが恋なのかどうかなんてことは考えなくても分かる。きっと恋だ。

 

 


あの子に会いたい。


けど理由がなくちゃすぐは会えないから何か考えなきゃ。

 

そうだ。映画に誘おう。あの人気のヤツを見に行こう。駅の大きな広場で夏祭りもあるらしいし誘おう。

 

 

それよりもまた雨が降ってこの間みたいに会えれば、恋だと自分に言い聞かせられるのに。

 

また次に会う理由が増えるのに。