diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

2019-01-01から1年間の記事一覧

第四十二話 キャンドルに火を灯して

「最近あのパン屋の商品は小さくなったよね~」 そんな膨らみのない話が始まったから酔いを冷ますという口実で俺は外へ出た。 都会の田舎に住む叔母の家に家族総出で遊びに来た。といっても母はよく遊びに来ていて、話に出てきていたパン屋の常連らしい。叔父…

第四十一話 そんな日々

電動自転車を買って、押して歩きたい。 パーマをかけて、帽子をかぶって過ごしたい。 吸えないタバコを買って、ベランダでふかしたい。 いつだってくだらない。 頑張っても、褒められるのは気に入られてる奴だけ。 高い服を買っても、スタイルが結局ものをい…

第四十話 昼下がり

私は日課のようにベランダでタバコを吸っていた。 程よい量の雲が浮かぶ良く晴れた日。煙とともに抱えきれない感情を吐き出していた。 合法的に喫煙をするようになってから8年が過ぎた。 故郷を離れてから10年が経つ。四年制大学に身を置いてまた新しい環境…

第三十九話 雨は上がったけれど

彼女に貸したタオルは、小綺麗な紙袋に入れられて返ってきた。 これを持って下校するのは、少し気恥しいがちょっとした優越感もある。 家に着いて気付いたが、手紙も添えられていた。 「この間は助かりました。ありがとう。また駅で会ったら話そうね。」 路面…

第三十八話 春

「じゃあ、そういうことでお願いね。」 突然の叔母からの電話の内容は、これまた突然のものだった。やっと冬の厳しい寒さも和らぎ、新しい緑をもうすぐ感じることができそうな日だった。 従兄弟がうちに1ヶ月ほど住み込むことになった。高校三年生の女の子。こ…

第三十七話 スターズ

煙草 「あ、あの煙草一本もらえる?」 「あ、すみません。僕もさっき他の人からいただいたものでして・・・手持ちはないです。」 「なんだこのガキ!ニコチン依存者め!!!」 何だあの親父。ただ俺は煙草をあげたくないから嘘ついただけなのに。 門限 よく…

第三十六話 輪

私はこの春に何とか志望する大学に入学することができた。 大学に入学したと同時に新しいことを始めようと思い、寝る前に日記をつけることにした。大体書き始めは気候や季節のことを書いてしまう癖があることに気づいた。 外に出るだけで嫌になるような暑さ…

第三十五話 退屈な男4

今日もいつも通り出勤。 8畳ほどの敷地面積をもつ店舗に1人で立ち右から左、左から右へと流れていく「お客様」に「いらっしゃいませ」を言うのがオレの仕事。 ではなかった。 古びれたデパートの地下で日本人に馴染みのない「トルティーヤ」を売るのが仕事。 オレ…

第三十四話 コンビニ店員

街はずれのコンビニエンスストアの駐車場に、黒光りする全長の長い車が停まった。 車のドアが開くと中からは洗練された黒のセットアップに身を包み、サングラスをかけ、ポマードで固められた髪型の男が出てきた。 男はコンビニエンスストアに入り、何の迷い…

第三十三話 他国

A国は自然に恵まれた国だ。生き生きとした草花が広がり、海や川の水はどこまでも透き通っている。国民のほとんどが自給自足の生活をしており、他国にその農林水産物を輸出することでこの国の経済は回っている。 国民のキャラクターとしては落ち着いた朗らか…

第三十二話 F氏 2

トンボはF氏のシャツから離れようとはしなかったようだ。一晩中そこにとどまっていたと考えると、その執着心は尊敬に値するほどだ。しかしそのシャツを着なければ直接的な害はないのだから、そこまでは困らない。F氏は他のシャツを羽織って、荷物を持ち仕…

第三十一話 雨があがれば

この町には路面電車が走っている。朝は通勤や登校に利用するビジネスパーソンや学生が、日中は各地へ出かけるお年寄りが乗り、夕方になれば退勤したビジネスパーソンや下校する学生たちが使う。割と夜遅くまで運行しているので飲み会帰りの大人たちも利用す…

第三十話 ペーパームーン

「私、漫画家さんになりたいんだ!」「アキちゃん、もう子供じゃないんだから将来のこと、真剣に考えなさい。」「真剣だよ私は!」「アキコ。そんなに人生甘くないんだ。考え直しなさい。」「パパもママも私のことぜんぜん信じてくれないじゃない!!!」 そ…

第二十九話 20歳 2

いつだって馴染めない。 何も考えず能天気に生きている人がうらやましい。皮肉じゃない。本心でそう思っている。けど、そうなりたいかって言われたらそうとも思わない。そう、そうは思わない。 自然と気さくに話せる人がうらやましい。人と仲良くすることは…

第二十八話 F氏

突き刺すような本格的な夏の暑さもひき、夕暮れ時になれば心地の良い気温になる。木の葉も深みのある褐色が混ざり始め、河原ではまるで浮かんでいるかのようにトンボが群れている。 F氏にはこの情景が、より美化されて見えていた。というのも今日は朝から想…

第二十七話 夜の公園

西暦何年なのかは分からない。 ただ技術は他方にわたり進化し続け、接客業というものまでがソレに代替されるようになった。 この街で1番大きな公園の門にも、女性の見た目をしたロボットが立っている。 センサーがついており、目の前に人がいると感知すると「…

第二十六話 オヤスミオハヨ

俺は別に一人で生きていける。 もちろん世の中に人間が俺一人では生きていけない。人間がいなければいろいろと回っていかないことは分かっている。そういうことではなくて、簡単にいえば生涯独身でも大丈夫ってことだ。家事はしっかりこなせるし、料理は趣味…

第二十五話 支配

当時まだ妖怪というものが認知されなかった頃の話。 正確にいえば、今でいう妖怪が人間と共存していたころの話。 川に洗濯をしに行けば水中では河童が泳いでおり、岩山のふもとには赤鬼たちが住んでいた時代。お互いに危害を加えることはなく平然と過ごして…

第二十三話 第二十四話 悩み

斯くして住宅街の一角にあるカフェのファンになった俺は休みの度にそこへ足を運んでいた。 今日もブラームスが脇役として店内の雰囲気を装飾し、シックな内装により趣を出す。 店内では常連客とカフェのマスターの会話が今日も盛り上がっている。常連と見ら…

第二十二話 恋

迷い込んだ子猫のように俺はそこに座っていた。 まあ、意図して俺はそこに居たわけだが雰囲気になかなか馴染めなていないと自負していた。しかし思っていたよりも馴染めているのか俺の影が薄いのか、常連やマスターはこちらを気にせず会話を続けている。 川…

第二十一話 傘

ここは都会のはずれにある小さな高級フランス料理レストラン。 今日も予約で満席。18:00の開店前から客がやってくる。あいにくの雨ではあるが、天候と料理の味は関係ない。むしろ雨のほうが客が少ないのではないかと知恵を働かせた客が予約をしてくるがその…

第二十話 20歳 1

大学に入ってから仲良くなった友人と三人で過ごすのが私の日課。みんな出身も違うし、入ってた部活も違う。それでも仲良くなれた。M君は高校時代から軽音部に入っていて今も続けている。Iちゃんは茶道部だったらしく今は私と同じで何もしていない。 大学生…

筆者は語る

慣れてない。物語を書くことに。面白い発想も毎日浮かぶわけではない。後から読み返して、何だこの投稿という回もある。しかしどの投稿にも愛着がある。自分が書いているから。僕が書きたいのは、星新一さんのショートショートのように、読み終わって「おお…

第十九話 町田

ある白髪の仙人みたいなおじいさんに出会い、願いを叶える合言葉を教えて貰った。「ポジティブシンキングメイキング」と唱えてから、願いをいえば叶うらしい。ただ人生で20回しか使えないらしい。 そんなことあるかよ。ただの夢だ。目を覚まして気付いた。疲れ…

退屈な男 3

今日もいつも通り出勤。8畳ほどの敷地面積をもつ店舗に1人で立ち右から左、左から右へと流れてい「お客様」に「いらっしゃいませ」を言うのがオレの仕事。 ではなかった。 古びれたデパートの地下で日本人に馴染みのない「トルティーヤ」を売るのが仕事。オレはオ…

第十八話 ある子供たちの世界

今日も子供たちによって公園は汚されていく。小学校から下校して自宅にランドセルを置き、すぐさま駄菓子屋に向かい少しの駄菓子を買い公園に集う。チャリンコを雑に乗り捨てて、ベンチに集まる。ある子供たちはカバンからゲーム機を出してピコピコと通信対…

第十七話 ナターシャ

私と彼の間に子供ができた。もう出産間近だ。妊娠中も彼は私に気を使ってくれてなんでもしてくれた。家事も彼がしてくれて買い物も彼がしてくれた。マッサージも毎晩してくれた。私と彼は一度もけんかなどしたことがなかった。昨日までは。 妊娠したとわかっ…

第十五話 第十六話 色別制度

ある地域で自治体によりある制度が導入された。「色別制度」だ。その地域に住む人間は自分が何色的人物であるのかを定め、手首にその色のブレスレッドを着用しなければならない。何色的人物なのかというものはに関して明確な標準化はされておらず各個人で自…

第十四話 ヨシオ

ヨシオは僕のクラスメイト。 僕は小学四年生。 小さな小学校に通っているんだ。 全校生徒は70人くらい。 だから三年生と四年生はおんなじ教室で授業をしている。 僕は音楽の授業が大好きなんだ。 特にリコーダーを吹くのが好き。 なんでか気持ちがワクワクす…

第十三話 バス

雨がまるで歓喜しているかのように、土砂降りのある日のことだった。5月15日のことだ。一人の男が道を歩いていると、大通りを白い霧に包まれたバスが通った。まるで西遊記に登場する筋斗雲がバスの周りを囲っているかのようにも見えるし、スモークグレネード…