diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

第三十二話 F氏 2

トンボはF氏のシャツから離れようとはしなかったようだ。一晩中そこにとどまっていたと考えると、その執着心は尊敬に値するほどだ。しかしそのシャツを着なければ直接的な害はないのだから、そこまでは困らない。F氏は他のシャツを羽織って、荷物を持ち仕…

第三十一話 雨があがれば

この町には路面電車が走っている。朝は通勤や登校に利用するビジネスパーソンや学生が、日中は各地へ出かけるお年寄りが乗り、夕方になれば退勤したビジネスパーソンや下校する学生たちが使う。割と夜遅くまで運行しているので飲み会帰りの大人たちも利用す…

第三十話 ペーパームーン

「私、漫画家さんになりたいんだ!」「アキちゃん、もう子供じゃないんだから将来のこと、真剣に考えなさい。」「真剣だよ私は!」「アキコ。そんなに人生甘くないんだ。考え直しなさい。」「パパもママも私のことぜんぜん信じてくれないじゃない!!!」 そ…

第二十九話 20歳 2

いつだって馴染めない。 何も考えず能天気に生きている人がうらやましい。皮肉じゃない。本心でそう思っている。けど、そうなりたいかって言われたらそうとも思わない。そう、そうは思わない。 自然と気さくに話せる人がうらやましい。人と仲良くすることは…

第二十八話 F氏

突き刺すような本格的な夏の暑さもひき、夕暮れ時になれば心地の良い気温になる。木の葉も深みのある褐色が混ざり始め、河原ではまるで浮かんでいるかのようにトンボが群れている。 F氏にはこの情景が、より美化されて見えていた。というのも今日は朝から想…

第二十七話 夜の公園

西暦何年なのかは分からない。 ただ技術は他方にわたり進化し続け、接客業というものまでがソレに代替されるようになった。 この街で1番大きな公園の門にも、女性の見た目をしたロボットが立っている。 センサーがついており、目の前に人がいると感知すると「…

第二十六話 オヤスミオハヨ

俺は別に一人で生きていける。 もちろん世の中に人間が俺一人では生きていけない。人間がいなければいろいろと回っていかないことは分かっている。そういうことではなくて、簡単にいえば生涯独身でも大丈夫ってことだ。家事はしっかりこなせるし、料理は趣味…

第二十五話 支配

当時まだ妖怪というものが認知されなかった頃の話。 正確にいえば、今でいう妖怪が人間と共存していたころの話。 川に洗濯をしに行けば水中では河童が泳いでおり、岩山のふもとには赤鬼たちが住んでいた時代。お互いに危害を加えることはなく平然と過ごして…

第二十三話 第二十四話 悩み

斯くして住宅街の一角にあるカフェのファンになった俺は休みの度にそこへ足を運んでいた。 今日もブラームスが脇役として店内の雰囲気を装飾し、シックな内装により趣を出す。 店内では常連客とカフェのマスターの会話が今日も盛り上がっている。常連と見ら…

第二十二話 恋

迷い込んだ子猫のように俺はそこに座っていた。 まあ、意図して俺はそこに居たわけだが雰囲気になかなか馴染めなていないと自負していた。しかし思っていたよりも馴染めているのか俺の影が薄いのか、常連やマスターはこちらを気にせず会話を続けている。 川…

第二十一話 傘

ここは都会のはずれにある小さな高級フランス料理レストラン。 今日も予約で満席。18:00の開店前から客がやってくる。あいにくの雨ではあるが、天候と料理の味は関係ない。むしろ雨のほうが客が少ないのではないかと知恵を働かせた客が予約をしてくるがその…