diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第六話 靴屋の秘密

ワレは靴屋の店主だ。あんこの生産量日本一の町にある、さびれた商店街で靴屋を営んでいる。ワレはもう63歳。お母さんはワレの一つ下だ。お母さんというのはもちろんワレの嫁のことだ。もうこの年になると名前で呼ぶのも恥ずかしいし、おい嫁とかおい妻とか呼ぶのはおかしいから子供たちに便乗してお母さんと呼ぶようにしている。別に変な話ではないだろう。ワレがワレのことをワレと呼ぶのもおかしくないのだ。

 

ワレはお酒が好きだ。特に近頃は焼酎のコーヒー割りにはまっているんだ。沖縄では泡盛をコーヒーで割るものがあるらしく、それをテレビで見て焼酎で代用してみたら意外といけることに気づいた。夜にコーヒーなんか飲んだら眠れなくなるわよと娘に言われるのだが、もうこの年になれば生きてるだけで腰が痛いんだから横になればいつだって眠りにつける。お酒を飲んで布団に入ったら毎回、靴屋を開業することになった頃を思い出す。

 

もともとは保険会社で営業マンをしていた。割と成績は優秀でボーナスを大量にもらったこともあった。しかし出る杭は打たれるというように上司からねたまれ、仕事がうまく行かなかったことがあったんだ。営業しに行かねばならぬのに、上司から資料作成を頼まれ続け、一日に広辞苑2.5冊分くらいの資料を作ったこともあった。その頃からお酒が好きだったワレは、行きつけの焼き鳥屋でふらふらになるまで飲んでストレスを何とか発散しようとしていた。ある日ふらふらに酔っ払ったまま河原を歩いていたんだ。飲んでるだけじゃ不満はなくならないから広い川に向かって大声で叫ぼうとしたんだ。そう。叫ぼうとした。しかし、そのあとのことをすっかり忘れてしまっていて、気が付いたら靴屋になっていたんだ。今でも思い出せない。今日も思い出せないか。とりあえず寝よう。

 

ワレワレは地球に行かねば滅びてしまう。ワレワレの惑星はもう限界だ。隣の惑星ダイセンの侵略をもう回避できない。ワレワレはワレワレより劣っている地球の人間という生物をターゲットにして地球を征服しなければ滅びてしまう。ワレワレは地球に行くしかない。そこでワレワレは人間とやらに乗り移るんだ。ただ気を付けないといけないことがある。乗り移りについてだ。ワレワレが乗り移りやすいのはストレスというものを抱えている人間らしい。本来のワレワレの力であれば地球などアクビをするよりも簡単に征服できるのだが、なんせ環境が違いすぎる。だからワレワレはストレスを抱えた人間を見つけなければならない。いいな?あと、うまく人間に乗り移れたら商売を始めるんだ。うまくコミュニティを広げて怪しまれないようにするんだ。わかったな?ちなみにおすすめは靴屋自転車屋だ。そこまで頻繁に客が出入りするわけではないから経営に不慣れでもワレワレだとばれない。あと、一人称はワレワレではだめだぞ。ワレワレは複数の生命体を指している。一人称は各自考えるように。

 

はあ、今日も二日酔いで起きたな。最近はさすがに年のせいかアルコールを分解できていない気がするなあ。まあ今日も頑張ろう。あ、そうだ。夢の中で思い出したんだ。あの日、河原で叫んだセリフ。

 

「お前のせいでこっちはストレス抱えてるんだよー!!!!!」だった。

 

これを言ったらワレはいつの間にか靴屋を営んでいた。