第五話　女の子の弟 - diary-sentencesのブログ

ぼくには一つ上のお姉ちゃんがいる。お姉ちゃんは今、小学5年生。ぼくはサッカーを習ってるけどお姉ちゃんは習い事をしていない。それなのにお姉ちゃんの帰りが僕よりも最近遅いんだ。パパやママはそんな心配していないし、ぼくも心配していない。しっかり外が暗くなる前には家に帰ってくるから。それに毎日食パンを持って帰ってくるんだ。なんでなのかはぼくは分からないけど。すっごくおいしい食パンだからうれしい。お姉ちゃんのおかげで、いつも朝ご飯は食パンだ。僕はイチゴジャムが好きだけど、パパはあんこ屋さんをしているからあんトーストも出てくる。パパとママとぼくとお姉ちゃんが一枚ずつ食パンを食べるから、食パンはほとんどなくなるんだ。残りはママがおやつで食べているんだと思う。いっつも家に帰った時には食パンがなくなっているから。それでも夕方にはお姉ちゃんが食パンを持って帰ってくるから大丈夫！そのおかげでぼくは毎朝大好きなイチゴジャムトーストを食べられている。

お姉ちゃんが食パンを持って帰ってくるようになったのは半年くらい前からだ。その頃からお姉ちゃんは毎日ニコニコしている。小学校に入ったばっかりの頃はお姉ちゃんはあんまり周りの友達になじめなかったみたいなんだ。お姉ちゃんは一人でいるのが好きだし、あんまりワイワイするのも好きじゃない。それもあってみんなの輪に入れなかったみたい。だからたまに小学校に行くのを休んでたりもしてた。ぼくが熱を出して学校を休んだ時にお姉ちゃんが家にいたことがある。ずるいなってその時は思ったけど、今はちょっとだけお姉ちゃんの気持ちがわかる気がするんだ。

お姉ちゃんに好きな人はいないの？って聞いたことがあるんだ。お姉ちゃんが食パンを持って帰ってくるようになって少したった頃に。そしたらお姉ちゃんはすごく笑顔で「いるよ」と教えてくれた。すごく気になって誰か聞いたのに全然教えてくれなかった。ぼくは同級生のアヤちゃんが好きって言ったのに。

ぼくがサッカーのコーチにこっぴどく怒られたことがあったんだ。なかなか上手にドリブルができなかったんだ。練習はたくさんしているのに。だからもう練習が嫌になって、お姉ちゃんにサッカー辞めたいって言ったことがあったんだ。そしたらお姉ちゃんは、「わたしはサッカーのことわからないから何も言えないけど、毎日上を向いて仰向けになって寝てごらん。きっと素敵な明日がやってくるよ」って言った。そんなの関係ないよっていじけてぼくは自分の部屋に戻ったんだ。明日のサッカーの練習が嫌で眠れなかったから、上を向いて寝たんだ。お姉ちゃんの言ったみたいに。朝起きてもいつも通りで変わらなかったけど、少しだけ練習を頑張れる気がしたんだ。お姉ちゃんはすごいなって思った。

お姉ちゃんは高校生になった。僕ももう中三だ。相変わらずお姉ちゃんは食パンを持って帰ってくる。どんどん食パンはおいしくなってきている。僕はサッカーを続けている。お姉ちゃんはやっぱり部活はしていないのに帰りが僕より遅かったりする。家族はそんなに心配していない。お姉ちゃんがどこに行っているのか分かっているからだ。どうやらお姉ちゃんは同じ町にあるパンを作る工場に行っているらしい。アルバイトをしているわけではなくて、工場のおじちゃんと仲良しみたい。不思議だよなやっぱりお姉ちゃんは。

お姉ちゃんは高校三年生になった。最近よくパン工場のおじちゃんの話をしてくる。本当は興味はないのに、そのおじちゃんの話が面白いからついつい聞き入ってしまう。最近はお姉ちゃんもパンの作り方を教わっているみたいなんだ。絶対にお姉ちゃんの作ったパンは持って帰ってこないけど。お姉ちゃんはパン屋さんになりたいのかな。

お姉ちゃんは大学生になった。僕も受験生だ。夏ごろ、いつものようにお姉ちゃんが食パンを持って帰ってきたのだが、いつもよりおいしくない。なんでだろう。野暮な質問かもしれないけど僕は聞いてみたんだ。そしたらお姉ちゃんは涙を流しちゃった。何かまずいことを言ったかなと不安になっている僕に、パンのおじちゃんが入院することになったってお姉ちゃんは教えてくれた。

お姉ちゃんは大学をやめた。学費は今後、返していくからという約束で辞めたみたい。今は朝早くからパンの工場に行っている。おじちゃんは無事退院してまた働きだしたようだ。そしてお姉ちゃんはパンの作り方を教わっているらしい。最近はおねえちゃんの作ったパンを持って帰ってくるのだが、それが意外とおいしい。才能があると僕は思っているよ。

お姉ちゃんはパンの工場に行くのをやめた。おじちゃんが病気で亡くなったようだ。あれだけ教えてもらってたんだから店を引き継げばよかったのに。お姉ちゃんはＯＬになった。

お姉ちゃんはＯＬを辞めた。雇われで働くのが嫌になったらしい。そしてパン屋さんを開業した。youtuberと迷ったらしいけどパン屋になった。なかなか人気の店になりつつある。この町にはお姉ちゃんのパン屋さんしかなくて、スーパーやコンビニのパン売り場には食パンとカレーパンしか売っていない。お姉ちゃんのパン屋の人気メニューは食パンとあんぱんだ。

お姉ちゃんはパン屋を辞めた。販売はやめてパンの卸業者になるらしい。超一流芸能人の自宅にパンをお届けするサービスに誘われ加入したらしい。

昔から変わった人だよなお姉ちゃんは。

そうそう、お姉ちゃんのパン屋さんの名前は

「ニューシネマパラダイス」っていうんだ。

有名なイタリア映画のタイトルからとったらしい。

どうやら、映画技師のおじいちゃんと少年の友情を描いた話しみたいだ。

今度観てみよう。