第十話 続き
「あなたも僕と昨日タクシー相乗りしましたか?」
つい焦って、不自然な日本語になってしまった。
「はい!昨日はお金まですみませんでした」
「いえいえ、酔っ払っていてあまりはっきり覚えてないんです」
「そうなんですか!?そうは見えませんでした。では改めてですが、マキです!」
「マキさんですね!分かりました!じゃあちょっと僕急いでるんでいきますね。またどこかでお会いしましょう」
これはどういうことなんだ?まあタクシーは4人乗りだからキャパ的には大丈夫だが、人間関係的には混沌してるよな。あの感じだと、ナツコさんとマキさんは知り合いでもなさそうだし。とりあえず急いでコンタクトを取りに帰ろう。
ん?俺ん家の玄関の前に誰かいるな。なんかの勧誘が??こっちは急いでるんだから、はやく帰ってくれよ。
なかなか帰らないな。もういいや、突撃してしまえ。
「すみません、ここ僕の家なのでどいてもらっていいですか?」
「あ、日本新聞のものなんですけ、、、
あ!前田さん!昨日はありがとうございました。」
え?ふざけすぎだろ。なんなんだ。
「もしかして、昨日僕がタクシーに乗せた方ですか?」
「はい!お金までありがとうございました!サエコですよ!覚えてますか!?」
「すみません酔っ払っていてあまり。では僕は急いでるし新聞には興味ありませんのでお引き取りください!」
「分かりました、またどこかで!」
こんなことがあるのだろうか。まあまだタクシーの定員を過ぎたわけじゃないから物理的には有り得るけども。次また新しい女性が現れたら夢ということにしよう。そんなことよりも、思ったより時間を食ってしまった。リノのお遊戯も見てやりたいし、ナツコさんの顔も見なければ。仕方ない、コンタクトを取ったら、タクシーで行こう。お金は使いたくないがそんなに長い距離じゃないし。
「お客さんどちらまでですか??」
「青葉幼稚園までお願いします。すみません近くて」
「大丈夫ですよー。では出発しますねー。」
ふー、普通の運転手さんで良かったぜ。たまに愛想の悪すぎるやつもいるからなあ。
「そういえばお客さん、昨日はどうでしたか?」
「え??何がですか??」
「何がって、3人も女性を連れてタクシー乗ってきたじゃないですか。」
「え!昨日の運転手さんなんですか!僕あんまりよく覚えてなくて」
「そうですよ。」
「そうなのか、酔っ払っていて覚えてないんですよ僕どんな感じでしたか??」
「いやいや、お客さんは酔っ払ってなんかなかったですよ。このタクシーに乗ったから覚えてないんですよ」
「え?どういうことですか??」
「そうそう、これが厄介なんだよなあ、この効果。説明した事までは覚えてるようにならないかな。ああ、こっちの話です。このタクシーは乗ったお客さんの会いたい人たちに会えるんですよ。」
「どういうことですか?僕が一緒に乗った三人の女性は、どなたも知りませんでしたよ。どういうことだ」
「そんなことないですよ。お客さんが小さい頃に好きだった女性の名前を教えてくれたじゃないですか。私が会いたい人とかいないんですか?と聞いたら」
なんなんだこのオヤジ。そんな記憶ないし、そもそもナツコさんも、マキさんも、サエコさんも知らない俺は。ん?いや待てよ、小さい頃に好きだった女の子って言ったな。ナツコ、、ナツコ、、、あ!幼稚園の頃に好きになったあのナツコなのか!?面倒みが良くてしっかり者だったナツコか!?マキ、、マキ、、あ!兄貴の仲良い友達の妹のマキか!?小さい頃よくうちであそんだマキなのか!?じゃあサエコは誰だ。サエコ、サエコ、、、。分かった!小学校1年のころに、友達と走り回って遊んでたら転んでしまって、その時に助けてくれたサエコちゃんのことか?サエコちゃんは5つくらい上だったはずだ。確かにさっき会ったサエコさんも歳上に見えた。
「なんで、なんでそんなことが出来るんですか!?運転手さん。誰なんですか運転手さんは。」
「ただのタクシー運転手ですよ私は。ただ、人に喜んでもらうのが好きでねえ。」
「ただそれだけで、、、信じられない。じゃあ俺がまた会いたい人を言えば会えるんですか??」
「ええもちろん。どなたでも会えます。」
、、、
「前田ミキって会えますか。」
「ええ、もちろん。お客さんが頭にその人を思い浮かべてくれればもうすぐ道路に立ってるでしょう。」
「本当ですか、、イメージしてみます。」
、、、
「ほらお客さん。あの方でしょう?」
信じられない。ミキにまた会えるなんて。ミキは事故でもう死んでしまってる俺の嫁だ。俺は結婚できないんじゃなくて、結婚してないだけなんだ。本当にミキなのか?ミキに会えるなんて考えられない。信じられない。
「相乗りさせてもらっていいですか??」
「ええ、もちろん。」
声を震わせながら答えた。
「ありがとうございます。ミキっていいます。お兄さんは??」
「ま、前田です、、」
そうか。俺のことは知らないていなのか。かなしいけどまたミキの顔を見られるなんて幸せだ。
「前田さんですね!前田さんどちらまで行かれますか??私は青葉の方にある墓地に行くんです。」
「お墓参りですか??僕は、、、僕はその先にある、、その先にあるコンビニに用事なので全然お気になさらず、、、。」
とっさに出た嘘のクオリティが低すぎる。でももう涙が出てきそうなんだ。喋るので精一杯だ。
「コンビニですか!じゃあ気にしないで乗らせてもらいます!!!!」
「は、はい。そうしてください。」
無言で過ごすのは勿体ない。時間は限られてるんだ。
「ミキさんは何されてる方なんですか??」
「私は歯医者の受付をしてますよ!」
「そうなんだ、なんか似合いますね」
ミキと同じ仕事だ。そりゃそうかミキなんだから。
「ミキさん好きな食べ物なんですか??」
「えっ、好きな食べ物ですか?うーん、パイナップルかなー」
同じだ。何回もコンビニにカットパインを買いに行かされたことがあった。
「ミキさんは、、、なんか僕、質問してばっかりですね、すみません」
「いえいえ、前田さんは変わってますね!大人に好きな食べ物を聞くなんて」
「あはは、すみません」
「あ、運転手さんここで大丈夫です!ありがとうございます!前田さんお金おいておきますね!では!」
「あ、いや、、、」
止める間もなくミキは車を降りた。そしてタクシーは発進した。すぐコンビニに着いた。
「お客さん降りますか??」
この運転手に聞きたいことも話したいこともたくさんあるけど、1人になりたい気分だから降りることにした。
「降ります。会いたい人に会えて幸せでした。運転手さんありがとう。」
「いえいえ、喜んでいただけたなら幸いです。またどこかで。」
タクシーを降りた。コンビニでタバコを買おう。コーヒーも買った。なんとなくカットパインも買った。ミキと付き合うのをきっかけに辞めたタバコを久しぶりに吸った。ミキが死んだ時以来だ。今からどうしようかな。幼稚園に戻る気分でもない。そうだ、ミキのお墓参りに行こう。ミキに会ったよって報告しよう。おかしな話だけど。
お花は生き生きとしている。お母さんが今日も水を変えに来たんだろう。俺は、カットパインを置いて、線香に火をつけて、目を閉じて、手を合わせた。
「ミキ、今日ミキに会ったんだ。ほんとだぜ。信じないよな、けどほんとだ。タクシーの運転手のオヤジが会わせてくれたんだ。どんな仕組みなのか全くわからない。今でも夢だと思ってる。けど俺はミキに会えたんだ。本当は今すぐにでもそっちに行ってミキに会いたいんだけど、俺がそっちに行ったら悲しむ人が少しだけいるから、まだこっちで頑張るよ。ミキに言うのは変だけど、元気でな。また来るよ。」
ミキに一方的に話して、俺は目を開けた。目の前にミキがいた。周りは墓場じゃなくなっている。真っ白な世界だ。
「やっとこっちでも会えたね私たち。ずーっと探したんだよ。」
ミキのその言葉を聞いて、俺の脳内の記憶は全て変わった。一変した。
そうか、俺はミキが死んで少ししてから、急な病気で死んだんだ。それで、タクシーの運転手をしてたっていうオヤジにこの白い世界で会ったんだ。
今会えるなら、誰に会いたい?、と聞かれて
ミキと答えたんだ。そしたらそのオヤジは、向こうも君に会いたいと思った時に会えるよ。私の力で。と言ってどこかへ消えた。
俺はその言葉を信じなかった。だから、会いたいと思うのをやめたんだ。バカらしいって思って。おちょくられてる気がしたんだ。そしたら、少ししてまたそのオヤジに会った。誰に会いたいのか聞いてきたんだ。腹が立ってたし、ミキに会いたいとまた答えるのも嫌だったから、初恋のナツコの名前を出したんだ。そしたらオヤジは
「その子ならすぐ会えるさ、ほら行っておいで。ただルールは、あっちで、知り合いに会ったとしても初対面のフリをすることだ。それだけだ。あそこの真っ白な扉をあけてみな」
言われるがままドアに近づき、開いた。目の前は夜の繁華街だ。そっちに足を踏み出すと元いた白い世界は消えた。目の前にタクシーが止まって、あっちの世界と同じオヤジが乗っている。早く乗れと促されるので、行く先も決まってないが乗ってみた。もちろんルールがあるからオヤジのことも知らないフリをした。
「お客さん、どちらへ?」
「とりあえず大通りを進んでください」
「了解です。」
しばらく進んでると道路に立っているナツコがいた。小さい頃と比べると、大人な顔立ちをしていてスタイルもいい。しかしやはり面影はある。
「お客さん、知り合いですか?」
「あ、、いえ。違います。相乗りだったら構わないですよ」
「分かりました、止まってみますね」
「運転手さん!相乗りさせてもらっていいですか!?急いでて!お兄さんもいいですか!?」
「ええ。どうぞ。」
「ありがとうございます!ナツコっていいます!」
「ナツコさんですね、僕は前田です。」
本当に、ナツコに会えた。あのオヤジが言ってたのはホントだったんだ。会いたいと思えば会えた。久しぶりだ、ナツコに会うのなんて。もう幼稚園を卒園して以来あっていない。他愛もない、会話をして車内は過ごした。するとこっちの世界のタクシー運転手が話しかけてくる。
「前田さんは、今会いたい人とかいますか?」
「うーん、、そうだなあ、、、、」
ミキの名前を出そうとしたが、本当にミキに会えるなら2人で会いたい。
「小さい頃に好きだった、マキとサエコですかね」
「ほおほお、まだまだ初々しい頃の思い出ですね」
「私にも初恋の思い出はありますよー!」
と、ダラダラと話しているとまた相乗りを求めようとする女が現れた。最初は分からなかったがよく見るとマキだ。小さい頃から会ってないから最初は分からないものだ。そしてまた、タクシーに乗り込んで来て、たわいもない話をする。すると例によってサエコが、道に立っていて相乗りを求めてきた。もちろん承諾した。
運転手と俺たち4人を乗せたタクシーは20分くらい走って1人ずつ降ろして行った。俺も生きてた時に住んでたアパートで降りた。
やっぱり3人とも俺の事なんて覚えてなかったか。そんなに昔から顔変わらないはずだし、面影もあるんだから覚えててくれてもいいのにな。
アパートの俺の部屋のドアを開けると、白い世界が広がっていた。1歩足を入れるとあっちの世界に繋がった。考えたいことは沢山あったがどうも疲れたようで、すぐ横になった。しばらくして目を開けて、白い世界を散歩した。久しぶりにあの3人に会ったな。あんまり話せなかったし、もう少し一緒にいてみたかったな。とか思ってたらタクシー運転手のオヤジにまた会った。
「昨日の3人にまた会いたいんだけど会えますか?」
「お兄さん欲張りだね〜、今度はちょっとの時間になるけどそれでいいなら会えるよ」
「うん、それで、いいです。お願いします。」
また、白い世界の扉を開けると、今日は俺の住んでた部屋に出た。なんか頭痛がする。酷く喉も乾く。こちらの世界の物を飲んでいいのか分からないが近くに置いてあるお茶を飲んだ。ひどい味だ。部屋のカレンダーにリノのお遊戯会と書き込まれてるので、とりあえず幼稚園に行くことにした。そしたらナツコに会った。少し話せた。次はマキに会った。そしてサエコにも会った。
やっぱりほんとだ。あのオヤジは何者なんだろうか。だとしたらミキに会いたい。どうしてもミキに会いたいんだ。二人とも死んでるはずなのにあっちでも、会えないなんて寂しい。そんなことを思ってたらタクシーが止まった、あのオヤジだ。もちろん、初対面のフリして乗り込む。するとこのオヤジは昨日会ったと言ってくる。ルール違反してないか?このオヤジの力だから、このオヤジは許されるのか?あ、、カマをかけて来たんだな。甘いなオヤジ。そう思って覚えてないことにした。すると、幸運にもまた会いたい人を聞いてくるもんだから、ミキと答えた。そしてやっとミキに会えた。涙が出てきそうだった。けと初対面のフリをしなければならないから我慢した。
良く考えれば、ミキも死んでいて、俺に会いたいと思ってそれをこのオヤジに伝えてるはずだから、互いに知らないフリをしないといけないのか。そんなの話しにくいけどルールだから守った。
しかし話がしにくいから好きな食べ物でも聞いた。
ミキは降りていった。俺もタクシーを降りて、コンビニによって、ミキのお墓参りをしに来た。俺の墓は地元にあるからここには無い。ミキの墓の前で手を合わせ、目をつむった。少し話しかけて、目を開いたら白い世界にいた。目の前には、ミキがいる。
「やっとこっちでも会えたね。ずーっと探したんだよ。」
「ああ、俺も早くミキに会って話したかったよ!」
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「ナツコさんは今すぐ会えるなら誰に会いたい?」
「そんな、会えるわけないじゃないですか!」
「そんなことないさ、私は人に喜んでもらうのが好きでねえ。だからそうすることが出来るんだ。互いに会いたいと思った時に会えるものなんだ。」
「じゃあ、初恋の相手の前田シンジ君に会いたいです。」
「そうかそうか。その子ならすぐに会えるよ。ほら、あっちの扉を開けて会いに行きなさい。あ、1つルールを。必ず初対面のフリをすること。分かったね?」
「分かりました。行ってきます。」