diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第三十三話 他国

A国は自然に恵まれた国だ。生き生きとした草花が広がり、海や川の水はどこまでも透き通っている。国民のほとんどが自給自足の生活をしており、他国にその農林水産物を輸出することでこの国の経済は回っている。

国民のキャラクターとしては落ち着いた朗らかな人物が多く、この国だからこその国民性を持ち合わせている。自然豊かなこの国ではあるがやはり技術的には他国にほとんど追いついてない。医療も発達していないが、空気もきれいで、程よい人口密度、体内に入る食材は全て無添加、法律でタバコ、酒も禁止されている為そもそも病気にかかる者が少ないため、医療の発達の遅れはそこまで痛手ではない。

他国では自動車の自動運転が主流になった頃に、A国にはテレビというものが普及し始めた。テレビで他国の状況を見たA国の国民は衝撃を受けた。徒歩以外の移動手段があり、飲食店に足を運ばなくても自宅に料理が届く。道でタクシーを拾わなくともスマートフォンなる文明の利器に搭載されたアプリケーションなるものを使用すれば即座に移動することができる。

テレビが普及したばかりの頃はただ単に憧れの眼差しでそれらを見ていたA国の人々であったが、次第にそれは欲求へと変わっていった。

外国籍を入手し、外国へと渡るものが多くなっていった。数年のうちにA国の農林水産業は著しく衰え、後継する者も減ってしまい、さらに数年するうちにはA国の人々は皆、外国へと移住してしまった。

 

B国はこの地球上において最も進んだ国である。人々が想像できることはすべて実現できるような社会。何かを利用せずとも、頭の中で「コーヒーが飲みたい」と思考するだけで目の前にはそれが現れる。犯罪というものはこの五年間ほど全く起きていない。B国の住民たちは常に政府に監視されている。もちろん発達しすぎたAIによって。だから軽犯罪ですら起こそうとした瞬間にそのデータが政府の犯罪対策部に送信される。第三者に被害を及ばすような行為に関しては出生時に体内に埋め込まれた機器から高圧電流が流れることによって抑制されている。

とはいえこの整いすぎた環境によって国民幸福度は異常といっていいほど高いものとなっている。

しかしある時、ある政治家が「もっと人間らしい生活を。自然と共に共存を。」というような演説をしたことがきっかけでそのような考え方の風潮が広まり始めた。勿論その政治家は即座に政府によって厳しく処罰されたが、一度広まった思想の熱が冷めるまでには時間がかかる。

その反面広まるのは早い。B国の人々の数%がそれを求める活動をし始め、やがて他国に目を向けるようになった。いわゆる自給自足を求める活動が広まり、主流となり、政府ですら管理することができなくなった。国民は他国に移住し始めたのだ。

 

A国の住民たちは皆、B国という先進的な国へと移住した。B国の住民たちは皆、自然あふれるA国へと移住した。各国の人々はその国土や残された文化に馴染んでいった。

 

地球に住む人間という生物は、「ないものねだり」という独特の特徴を持つ生物だと、他惑星で研究結果が出た頃の話だ。