diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第十五話 第十六話 色別制度

ある地域で自治体によりある制度が導入された。「色別制度」だ。その地域に住む人間は自分が何色的人物であるのかを定め、手首にその色のブレスレッドを着用しなければならない。何色的人物なのかというものはに関して明確な標準化はされておらず各個人で自由に決められるが、設定後の色の変更は不可能である。

それに俺の住む町も含まれている。いきなり自治体から「色別制度」の書類が届いたときは困惑した。しかし、自分の中で自分のイメージカラーは青だと思って過ごしてきたので、すんなりと書類を提出できた。提出して三日もたたないうちに青のブレスレッドが届いた。届いたら着用して過ごしてくださいということなので、腕に付け外へ出た。すると案外普及していた。

「色別制度」が始まって、一か月が経った。あることに気づいた。あの人は何色の人なんだ、と認識してしまっている自分にだ。相手の色を見るだけで、あの人はこんな性格の人なのだろうというようなことを考えてしまう。逆に自分と同じ人を見ると安心する。自分のことに何でも共感してくれそうな気がするから。

「色別制度」が始まって三か月が経った。町で見かける若者のカップルはほとんどが同色になってきた。もしくは決められたパターンが多い。例えば赤と青。これはとても多い。積極的に引っ張るタイプの赤と物静かな青のカップルをよく見る。とはいってもやはり同色カップルのほうが多い。楽なんだろうおそらく。

「色別制度」が始まって十か月が経った。企業は新入社員を雇う際に、各部門によって色で判断する仕組みを作り始めた。例えば営業であればオレンジの人。社交的で印象が良い。話し方もはきはきしており気持いい。確かに「色別制度」によってキャラクターがはっきり分かれていくから、採用する側からしたら便利なのだろう。

「色別制度」が始まって一年と二か月が経った。俺の友人に、誤って黄緑で登録をしてしまったやつがいるのだが、もともと黄緑的人間ではなかったのにどんどんそれに近づいている。前まであんなにとげとげしかった奴が、人に対して優しく接するようになったのだ。着る服の系統も派手なものから爽やかなものに変わったし、無精髭も剃っている。この制度は人の性格まで変えてしまうのか。

「色別制度」が始まって三年。この町にはその人間しかいなくなった。この町自体がやがやした街でも、田舎な場所でもなく、閑静な住宅地という感じなのでそれに見合った人だけが残るようになったのだ。特段、自治体から青以外の人間の退去などの指示は出ていないのだが、この町に居ずらくなったのだろう。

「色別制度」が始まって三年八か月。本格的に自治体が、町ごとの色を決めることになった。もちろん俺の住んでいる町は青。隣町は黄色になった。急に、退去を求めたら大変じゃないかと思うかもしれないが、すでに人々は色ごとの町創りに奮闘し始めていたので何と言ったことはない。

「色別制度」が始まって六年。世界中で「色別制度」が設けられ、各国の色が決まった。日本は白的国家になった。誠実な国民性と汚されることなく引き継がれている伝統をイメージして定められた色らしい。

「色別制度」が始まって六年一か月。カラーフリーを求める運動が活発になった。色で自分のキャリアを決められるのはどうも納得いかないという人々が団結しデモを起こした。これに対して政府はあいまいな対応をする。あくまで「色別制度」は各個人のイメージを相手に伝えるものであって、それを利用したキャリア操作などは国では行っていない。といったらしい。確かに国としては行っていないが。

「色別制度」が始まって八年五か月。ある国が、カラーフリーの推進を始めた。その国は国の色もなかったことにしようとしている。そう、色から解放された政治、国民生活のために動いたのだ。しかし、これは批判を浴びる。

「色別制度」が始まって十年。カラーフリー運動は世界的に広まり、世界の45パーセントがこの制度の廃止を決定した。しかし、廃止した国は何をするにしても時間コストがかかってしまい遅れを取る、この制度は合理的といえばそうなのだ。

「色別制度」が始まって十五年。この制度は廃止されることはなさそうだ。だからこそ国内においても、マスメディアにおいても、カラーフリーという言葉が従来のものとは違う意味合いを持ち始めた。カラーフリーというのは誰でもいいよ、というようなイメージになってきた。採用対象もだ。そこからいくつかの過程を経て相手がふさわしい人材かを判断するようになる企業が増えた。

「色別制度」が始まって十八年。同調過剰による目的の置換が頻繁に起きるようになりのこの制度の存在意義が薄れてきた。日本もこの制度からの脱却をすることになった。

「色別制度」から脱却して八か月。マスメディアで知識人がこの制度を批判し始めた。暗黒の十八年とかいって。

「色別制度」から脱却して五年。今でも、「あなた何色だったの?」というような会話が繰り広げられている。過去を引きずるのは人間の悪い癖だ。この間もある企業が面接時にその質問をして、企業のイメージに合わない色の就活生は不採用としたというニュースが報道されていた。

「色別制度」から脱却して八年。

この制度を導入した本人はある取材でこう答えたという。

「人間は単純でおもしろい」と。

 

まだインターネットが普及する前の話だ。