diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第二十六話 オヤスミオハヨ

 

俺は別に一人で生きていける。

もちろん世の中に人間が俺一人では生きていけない。人間がいなければいろいろと回っていかないことは分かっている。そういうことではなくて、簡単にいえば生涯独身でも大丈夫ってことだ。家事はしっかりこなせるし、料理は趣味の一つだからそこら辺の女性よりもおいしく作れる。収入だって独り身で生きていくには十分に足りている。さみしいという感情はもちろん持ち合わせているが、幸せなことに素敵な友人にも何人か恵まれておりいつも一人でいるわけではない。

それに彼女や嫁さんが欲しくなったとしてもめんどくさい俺の性格や考え方がその範囲をおのずと狭めてしまう。別に理想が高いわけではないが、いわゆる条件として定めているものをすべてクリアする女性じゃなきゃその対象になりえない。もちろんその条件の数が多いわけではない。意地になって条件がどうこう言っているわけではなくて、中途半端に好きで付き合っても相手を傷つけるだけだし、お互いの時間も無駄に使ってしまう。だから俺はしっかりと人を知ってから判断している。

 

別に俺は完璧な人間ではない。だからミスすることだってある。そう今回みたいに。

 

朝起きたら隣に知らない女がいた。厳密にいうと顔や名前、俺との関係は知っている。もっと細かく言うと俺がこの女に好意を抱いて近付いたのも知っている。まだ出会ってからの関係が浅いことも知っている。知らないのは、なぜこの女と俺が付き合っているかだ。朝起きたら隣に彼女がいたのだ。厳密にいうとこいつが彼女なのは知っている。なぜなら俺が昨晩告白したから。もっと細かく言うとしっかりこいつと生きていこうと腹を決めて告白したことも知っている。知らないのは、なぜ俺の彼女になる女性としての条件をすべてクリアしていない女に告白したかだ。それだけは知らない。この女とは一か月前ほどにひょんなことから出会って、数回ご飯に行った。話すたびにこの女の人間味に惚れてしまっていた自分がいた。しかしこの女は俺よりも若いし、人としてもまだまだ未熟だ。共に過ごしていても若いくせに大人ぶりやがってと、かわいらしく思える時もあれば恥ずかしくなる時もある。その時点で俺の彼女条件は満たせていない。見ていてこちらが恥ずかしくなる、つまりこちらがマイナスなイメージを持ってしまっている。マイナスなイメージを持ってしまう女性は条件を満たしていない。それを十分に知っているのに俺はこの女に告白してしまった。

 

なぜなのか。少しだけ理由がわかる気がする。それは惜しみなく俺への愛情を伝えてくる点だ。本当に惜しみない。拭い去れない俺への愛情を持っている。わざわざほんの少しの時間を見つけて会いに来るし、会えない日は電話をかけてくる。朝起きたら、何の心の重みも感じさせない「おはよう」の連絡が来ているし、返信をすれば無駄な気を遣わずに良いタイミングで連絡を返してくる。話題が途切れるのを避けるために自分をオーバーに表現したり、きっと興味のない俺の仕事の話を聞いてきたりする。

 

しかし紙一重だとも思っている。運命と遊びの。こんな短期間で急接近し、俺にここまで愛を伝えてくる。俺も気になる点がありながらも冷めることのない愛情をもって接している。純粋に考えていいのなら俺とこの女は運命の二人なのだろうが、斜めから見てしまえばお互いに遊びなのではないかと思ってしまう。愛情と時間に何の因果関係がないのであればこんなことなんて考えないのに、この世にこの二つが存在する限り、この不安は生まれてしまうものなのかもしれない。

 

そそくさと女は身支度をし始めるが、俺の声に促されてその女の香りは近づいてくる。俺がこの女に何を求めているのかは分からない。ただ俺は、もう大人だからと達観していたフリをしていただけでまだ知らない感情とか、人との付き合い方があるのかもしれない。わからないさ俺だって。もしかしたら時間とお金をむだにする恋になるかもしれない。ただこれがそうはならずに実っていく恋なのだとしたら、少しくらいこの女のマイナスに見えてしまうところも目を瞑ったっていいなと思えてしまう。

 

こんなことを考えながら彼女と過ごしてしまう時点で実力不足ってところか。

ミスではないと確信しているが、こんなに自分が自分に素直なことが今までなかったから疑ってしまう。

そんなことを考えながら彼女を抱きしめる朝。変わらない心の渦。感情の乱気流。

俺の考えをすべて見透かしたように彼女は俺に体重をかけてくる。

そうかやっと俺にも見えてきたものがある。この彼女の重さこそが俺の真実で、この君の重さだけが俺をそこから救い出してくれる。

きっとこれからも彼女のことを思い続けて、そばにいてほしいと思うのが俺の人生なんだろう。

そう思いながらオハヨと、彼女に伝える。