diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第三十一話 雨があがれば

この町には路面電車が走っている。朝は通勤や登校に利用するビジネスパーソンや学生が、日中は各地へ出かけるお年寄りが乗り、夕方になれば退勤したビジネスパーソンや下校する学生たちが使う。割と夜遅くまで運行しているので飲み会帰りの大人たちも利用する。6分に一度のペースで用意された路面電車は重宝されている。

 

もうそろそろ、うんざりするこの雨の日々とも別れの頃。タカシは登校するために路面電車を待っていた。雨が降ると利用者も増える。普段は自転車などを利用している人もこちらに遷移してくるからだ。路面電車を待っているとひどい土砂降りの中、傘をささずこれぞまさにびしょ濡れというような女性が駅にやってきた。タカシよりも大人びた見た目だったから年上かとも思ったが、高校の制服を身に付けていたので同級生以下の年齢ということが分かった。タカシは高校三年生だった。

 

気弱な性格のタカシは声をかけるか迷ったがそれよりも紳士的な性格が勝り、カバンからタオルを取り出しその女性に渡した。女性は申し訳ないと断ったがこのままびしょ濡れで路面電車に乗るわけも行かなので頭を下げてタオルを受け取った。女性がやっと髪の毛を滴る水を拭ききった頃にタカシの乗ろうとしていた路面電車は発車してしまった。気の毒そうに謝る女性。また6分すれば来ますから。と冷静に対応するタカシに女性もそうですねと微笑んで返した。制服を見て自分と同じ高校ではないとは判断できたが、それ以外のことは分からなかったので無言の時間を埋めるために高校を聞いたり、学年を聞いたりした。どうせこれっきりの関係なんだからあまり興味もなかったが。どうやら、タカシが降りる二駅前にある私立高校の三年生らしい。同級生だ。部活はしていないらしい。学年も部活をしていないところもタカシと同じで何となく親近感がわいたが、そこから恋愛に発展するうような感情は生まれないようにした。

 

次の路面電車が来る少し前に女性はある程度雨で濡れた制服を拭ききった。タカシはそのまま返してくれてもいいし、家で捨ててくれてもいいよ、と言ったが女性は申し訳ないから明日返すねと言って辞めないからそうすることにした。

路面電車がやってきて二人は何となく離れて座った。女性は先に降りて、その二駅後タカシも降りて高校に向かった。

その日はお昼前には雨が上がり何日かぶりに空が青くなった。もしかしたらあの女性は天気が晴れるのを知っていたから傘を持っていなかったのかと、よくよく考えれば見当はずれな予想をしながら、苦手な数学の時間を過ごした。

 

もうそろそろ、うんざりするこの雨の日々とも別れの頃。ハルは今日も雨にうんざりしながら家を出た。高校の友達は大好きだがとにかく雨が嫌いで登校するのも嫌になるくらいだ。傘を差してもローファーは濡れてしまうし、カバンにも雨はかかってくる。朝から不機嫌になりそうな気持ちをなだめながら歩いていると、目の前を歩いていた小学生の女の子の傘が風で飛ばされて行ってしまった。黄色帽子がよく似合う女の子の傘は川に落ちてしまいどうしようもなくなっていた。周りにはハルしかいなかったし、この辺の小学校はもう少し歩かねばならない距離にあることを知っていたので女の子に傘を貸すことにした。女の子はお姉ちゃんも濡れちゃうからいいよと断ったが、ハルが陸上部員だから走ったらすぐ着くという謎の嘘をついて女の子に傘を渡した。ハルは持っていたタオルで女の子の髪の毛を拭いてやっていたら、お姉ちゃん遅刻しちゃうよと女の子が気にしていくるものだから、6分すれば次の路面電車来るから大丈夫と説得した。といいながらそう何本も逃すわけにはいかなかったのである程度拭いてやり、タオルは女の子に渡して駅に向かった。くせ毛を気にしてカバンを頭の上にやって走ったがそれでも凌げない雨が降るもんだからあきらめた。

 

トモキは放課後、他の高校に行っている中学の友達と映画に行く約束をしていたので帰りのホームルームが終わると急いで駅に向かった。路面電車を待っている間にトイレに行きたくなってしまった。我慢しようとも思ったがトイレに行くことにして、携帯電話をとりだし友人に、6分遅れると連絡をした。映画館につくと友人がチケットを先に買って待っていた。ごめんごめんと平謝りをしてシアターに入った。映画が終わると、夕食をとろうかという話にもなったが今月はお小遣いが厳しいのでやめて帰宅することにした。電車で帰る友人を見送りして、路面電車の駅に向かった。

 

ハルは放課後、一つ上の姉とショッピングをする予定だったので下校のあいさつをすると特に友人と雑談をするわけでもなく駅に向かった。向かっている途中に、今朝女の子に傘をあげてびしょ濡れになって駅にたどり着いた私に、男の子が貸してくれたタオルを教室に忘れてきたことを思い出した。別に明日でもいいかと思ったが、申し訳なさからまた明日会うかもわからないのに、明日返しますと約束してしまったことを思い出したので取りに戻ることにした。学校の敷地に入る前に、姉に6分予定より遅れちゃうと連絡した。ショッピングモールにつくと時間にうるさい姉がつんとした表情で待っていたので、年下らしく可愛らしく謝っておいた。一通りウインドウショッピングをした後、一番気に入った夏用のスカートを購入した。ハルはてっきり夕食まで食べるものだと思っていたが、どうやら姉はこの後大学の友人と会う予定があるらしく大人しく路面電車の駅に向かった。

 

トモキが路面電車を待っていると、今朝タオルを貸した女性が駅にやってきた。何となく気まずいから気づかないふりをしようと思ったが、つい目が合ってしまった。

 

ハルが駅に向かうと今朝タオルを返してくれた男が路面電車を待っていた。今日のお礼をもう一度伝えようかなと思ったが、向こうが気まずいかなと思ったので声はかけないようにした。だから心の中でありがとうとつぶやいたときに目が合ってしまった。

 

二人は何となく歩み寄り、どうもと声を掛け合った。トモキはまた時間を埋めようとどうでもいい質問を投げかけた。どんなアーティストが好き?旅行行くならどこに行きたい?そんなまるで中身の無い話をしていたが何となく楽しい時間だった。たった数分の会話だったが心の距離は少し近づき、お互いの中学時代の話をしていた。そんなときに路面電車がやってきた。お互いにこれは乗り込むものかと足を動かせなく、しどろもどろしていると時間に正確な路面電車は発車してしまった。

何となく二人は顔を見合わせて微笑みあった。

 

「6分すればまた来るしね。」

「それを逃してもまた6分すればすぐ来るよ。」

 

次の日からは晴れ渡る青空が広がった。