diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第十三話 バス

雨がまるで歓喜しているかのように、土砂降りのある日のことだった。5月15日のことだ。一人の男が道を歩いていると、大通りを白い霧に包まれたバスが通った。まるで西遊記に登場する筋斗雲がバスの周りを囲っているかのようにも見えるし、スモークグレネードがバスの周りに投げ込まれたかのようにも見える。よく見ると、バスの内部もやけに、もやもやしている。しかし、運転手も乗客も普通だった。バスの前後の車は普通だからあのバスだけ異常だ。一人の男は不思議に思ったが自分には関係の無いことなのでまた歩き出した。

 

サークル・ゼミの飲み会の幹事やりますサークルの幹事、武田はいつも通り大学へ向かうバスに乗った。5月のこの時期は新歓が多く、多くの団体から幹事を依頼されるようだ。この3日間で15件もの予約を取っている。1番大規模な新歓は80名なので予約する店探しも難儀したようだ。武田は乗り物酔いしやすいのでバスの前方の座席を陣取った。またメールを受信したのでケータイを開くと新しい依頼だった。55名での新歓の幹事を依頼されたようだ。厳しい表情をする武田だった。1度、仕事から離れようとケータイの画面をロックし、窓の外を眺めた。ものすごい雨に気づいた。傘をさしてバス停に来ていたもののここまでの雨だと気づかなかったようだ。すると目の前を分厚い靄が覆い、猛烈な眠気が武田を襲った。

 

黒髪ロングで、整った顔立ちをした澤島はゴーストライターだ。彼女は自分で文章を作ることは苦手だが、誰かの真似をして文章を書くのを非常に得意としている。その実力を買われて今では有名小説家8名のゴーストライターをしている。ここ最近は3人の納期が被ってしまい、多忙な毎日を送っている。主人公の名前が混ざってしまうのが、ゴーストライターあるあるらしい。バスの後方の2人掛けシートを占拠した澤島は、ノートパソコンを開いて文字を打っていたがまた主人公の名前がわからなくなったので、ノートパソコンの画面を閉じ外を眺めた。朝よりも降り方が強くなってるなというように顔をしかめた時、目の前を濃厚な霧のようなものが多い、強烈な眠気が澤島を襲った。

 

高校の体育教師をしている田淵は疲弊した顔をしてバスに乗り込んだ。もちろん教師業も忙しくあるが、不倫の影を嫁につかまれ、探偵を雇われた結果、まんまと探偵に不倫の証拠をおさえられたのだ。探偵のいやらしい所はその証拠を嫁にすぐに提出するわけではないところだ。嫁からは依頼金5万で受けているが、田淵が10万出せばこの証拠は無かったことにするという交渉を探偵がしてくる。1週間前に交渉しにきて、その期限は明後日までだ。毎日億劫だ。お小遣い制の田淵がすぐに10万を用意出来る訳もなく途方に暮れたままバスに乗って出勤しているところだ。そんな状況でも不倫相手からは、おはようのメールが届く。この状況から目を逸らしたくなり田淵は窓の外に目をやった。田淵の心の中のように土砂降りで、落ち込んだ空気をみて、田淵の顔はさらに疲弊した。すると真っ白な靄が目の前を覆い、田淵を強烈な眠気が襲った。

 

雨がまるで歓喜しているかのように、土砂降りのある日のことだった。5月15日のことだ。一人の科学者が大通りを歩いていると、ひどく濃い霧のようなものに包まれたバスが大通りを通った。見たことの無いような靄に包まれたバスだったが、外とバス内部の気温差、雨による湿度の関係でこうなってるだけだと一人の科学者はすぐに分かった。

 

バスは問題なく終点へと辿り着いた。