diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第十二話 ジャガイモ

ケビンはいっつも僕にジャガイモの話をしてくる。ケビンの実家は代々ジャガイモ農家らしい。ケビンは名前でもわかるように、日本人ではない。アメリカのどこか出身だ。広大な土地で日本では見慣れない、細長くて大きいジャガイモを栽培しているようだ。

 

ケビンは半年間の短期留学で日本にやってきている。僕の通っているF大学の農学部イモ類学科に。僕は農学部ではなく経済学部だ。ではなぜ僕がケビンと仲が良くなったか。それは僕の家にホームステイしているから。本当はホームステイなど受け入れる予定はなかったし、ケビンは他の家が決まっていたんだ。僕の友人の家に。しかしその友人が急遽、家庭の事情で一か月ほど実家に帰ることになってしまったんだ。それで代わりを頼まれたってわけ。まあ別に苦ではないので構わない。

 

ケビンは初めて会った時からだいぶ日本語を話せる。日本の漫画が好きで勉強していたらしい。そしてケビンはあった時から僕にジャガイモの話しかしない。初めての夕飯の時も、寝る前も、登校中も。3週間たった今でもジャガイモの話をしてくる。

 

「なあケン、今日のディナーはローストポテトにしよう。僕が作るよ。アメリカの実家でもよく食べていたんだ。皮はむかずに、切れ目を入れる。岩塩をまぶしてオーブンでじっくり焼くんだ。焼きあがったらバターを乗せてパーフェクトさ。よくアメリカで食べたなー。ローストポテトが食卓に並ぶ日は、マッシュポテトが出てくるのが定番だったんだ。少し塩辛いローストポテトを食べて、シンプルなマッシュポテトを食べるんだ。最高だろ?」

 

この調子だ。はっきり言って普通ではない。日本に来てまでジャガイモばかり食べている。こっちで唯一食べた日本食おかゆだ。一度ケビンが体調を崩したのでつくってっやたことがある。美味しいとは言っていたが、次の日にはハッシュドポテトを信じられないくらい食べていた。

 

もうケビンと暮らすようになって2か月が経つ。今日もジャガイモの話だ。

「そうなんだ。意外とジャガイモに合う調味料って多いんだぜ。例えばマッシュポテトにオイスターソースとかね。これが最高に合うんだ。今夜試さないか?ケン。」

 

最近はジャガイモの話はスルーしている。知識もなければジャガイモに対する愛情と熱意もないからだ。

 

「なあケン。俺たちでジャガイモの会社を作らないか?」

は?何を言ってきやがるこいつ。なんだ、ジャガイモの会社って。AppleじゃなくてPotatoっていう会社でも作ればいいのか?まあかッとならずにどんな会社なのか尋ねてみた。すると

「どんなって、ジャガイモを作って卸す会社だよ~。ジャガイモ農家と同じさ。」

 

は?それなら実家を引き継げばいいだろ。と言いかけたがケビンが続けた。

「本当は実家の農家を継げばいいんだけど、それは弟に譲りたいんだ。弟は俺よりも勉強はできないけど、ジャガイモに対する熱意を俺よりも持っているんだ。それにすっごく家族を大事にする男なんだ。俺だって大切にするよ?けどあいつはもっとする。母親が皿洗いをしていたら、インフルエンザ中でも代わってやってたし、妹たちが寝付くまで何時間だって起きている。やっと妹たちを寝かせたと思ったら今度は小さい弟が夜泣きを始めるんだ。それに付き合って、朝方になる。朝になればジャガイモ堀りの用意をしないといけないから、ジャガイモをスライスして、ケチャップで炒めて朝ご飯を作っている。こんなに家族に献身的な弟に実家のことを任せたいんだ。長男だからといってそれを奪うのは違うと思っている。」

 

なんだいい話じゃないか。その手の話に弱いんだ僕は。

「だから俺は自分でジャガイモ農家を作らないといけないんだ。大好きなジャガイモの魅力を世界中に広めたいから大きな会社にする必要がある。それにはケンの力が必要なんだ。俺とジャガイモ会社をつくらないか?」

 

感動の勢いで承諾してしまった。しかし男に二言はない。やってやろう。

 

「じゃあ三か月間ありがとう。一度アメリカに戻って大学を卒業したらすぐに戻ってくるよ。また4か月後に会おう。」

これで僕の就活は終わったのだ。なぜなら社長になったから。ケビンは社長でなくていいらしい。だから僕が社長だ。親を説得するのに一か月かかった。

 

「久しぶり!ケン!元気だった?さっそく会社を設立しよう。あ、見てくれよこれ。向こうで新しいジャガイモを開発したんだ。そう、ビーフステーキの味がするジャガイモとチョコレートの味のするジャガイモさ。原価は変わらないよ。ただのジャガイモだから。」

 

すごいのを持ってきやがったこいつ。しかも味がしっかりしている。これは売れるんじゃないか?早速僕らはこのジャンルを持って大手コンビニチェーンの本部に行った。これをフライドポテトにした商品を作らないか?美味しいし安いぞ、と売りこんだ。すると承諾を受けた。三か月後から販売を開始したい旨を伝えられたので、急いで田舎に引っ越し広大な畑を借りた。ケビンが持ってきた苗を植えて念入りに世話をした。するとアメリカ産だからなのか分からないが、生命力が強くどんどん成長し繁殖した。これで大手コンビニからの発注も耐えられた。発売前からかなり話題になって、当日は即完売したようだ。どんどん発注が来るのでその地域の畑をすべて借りた。ケビンが栽培部の部長となって社員に指導をした。見る見るうちに会社は成長して、東京に本部を構えるようになった。僕は東京本部で仕事をしている。ケビンは田舎で今日も大好きなジャガイモを作っている。お金の有り余る僕らはどうしようもなくなって大手ポテトチップス製造メーカーを買収した。製品にケビンの作るジャガイモを使わせたためもっとお金持ちになった。

 

そんなある日、ケビンが東京本部にやってきた。

 

「やあケン。久しぶりだね。実は今日は大切な話が合ってきたんだ。実はアメリカでジャガイモ農家をやっている弟が医者になりたくなって猛勉強して本当に医者になったらしいんだ。それはいいことなんだが向こうのジャガイモ農家を行く継ぐ人がまだいなくて、それで俺が行くしかなくなったんだ。だからアメリカに帰らないといけないんだ。」

 

そうか。久しぶりに会ったケビンがまさか、ジャガイモ料理以外の話をしてくるなんて。さみしいけど仕方ないな。じゃあ、アメリカのケビンのジャガイモ農家も買収しよう。そうすればケビンの家族もお金に困ることなく生きていけるし、僕をジャガイモの会社に誘ってくれたケビンへの恩返しにもなる。

「本当に?ケン。助かるよ。あんまり潤った経営状態ではないんだあっち。向こうでも俺頑張るよ。」

そう言ってケビンは空港に向かった。

 

ケビンがアメリカに戻ってから一年が経つ。日本のわが社の農園はケビンの丁寧な指導のおかげで、品質に変わりなくジャガイモを作れている。事業はというと、日本のお店で出てくるジャガイモ料理のジャガイモは全てうちのジャガイモになった。他の農家をつぶしたわけではなくて買収した。みんなジャガイモが好きで作っていたのだから一人占めしてしまうのは良くないよとケビンに国際電話で言われたので、買収してたっぷりと給料を払って良いジャガイモを作ってもらってる。ケビンはというと、アメリカで日本のジャガイモを栽培して大ヒットさせたようだ。肉じゃがをアメリカ中に広めようと努力しているらしい。実際に肉じゃがの認知度は高まっていて、その結果やはり肉じゃがには日本のジャガイモがいいということで、ケビンたちも儲かっているらしい。

 

僕らの会社の名前はPotato&ポテトだ。ジャガイモがきっかけで、国なんか関係なく一生の友人に出会えた。その感動をこめてこの名前にした。

 

明日、久しぶりにケビンが日本にやってくるらしい。明日はどんなジャガイモ話が聞けるか楽しみだ。