第七話 真っ白
ついに入学式の日かあ。友達出来るかな。地元から離れた大学だから高校の友達もいないし。まあしっかり明るくしていよう。学科の説明会は学籍番号順で座るのか。隣の人はどんな人なんだろう。緊張するな。
「あ、お名前なんて言うんですか?」
「田崎です。よろしくね。君は?」
「マイコです。よろしくね!」
とても物静かで、真っ白なシャツの似合う田崎君が隣だった。愛想が悪いわけではないけど少し暗い子だなって感じかな。けどいい人そう。他にも友達作らなきゃ。
「もう大学入ってから一か月もたつね~マイコ」
「ほんとに早いねアキコ!」
私は気の合うアキコと仲良くなることができた。アキコの友達とも仲良くなれたし、割と大学生活は充実している。
「え?今日みんな講義こないの?」
「うんごめんね~、母校の学園祭に行ってくる~」
「了解!たのしんでね!」
どうやら、アキコたちは講義に来ないらしい。ってことは私一人じゃん。なんだかさみしいし、ちょっと恥ずかしいな。まあいいやっ、教室いこー。
あ!田崎君だ!今日も真っ白なシャツ着てる。好きなのかな、毎日真っ白なシャツだけど。せっかくだから隣で講義受けよっと。
「おはよう!田崎君」
「お、おはようマイコさん。どうしたの!急に」
「友達が講義来ないから一人になっちゃって。隣いい?」
「ああ、もちろん。」
それ以来私たちは仲良くなった。別に恋愛関係になったわけではなく素直に友達になったんだ。アキコたちは講義さぼりがちだし、私はアキコたちといる時間も田崎君といる時間も好きだからいいんだけどね。
「お昼だよ。ご飯食べに行こうよ、学食に!」
「あ、別にいいけど僕おにぎり持ってきてるんだ。それ食べてもいい?」
「うんもちろんいいけど、おにぎり持ってきてるんだ。節約?」
「そうなんだ。あんまり裕福な家庭じゃないから、学費も一人暮らしの生活費も
僕が出さないといけないからね、あはは。」
「え!めっちゃ大変だ。じゃあ私の定食の小鉢あげるね!あはは!」
「全然、気にしないで!楽しく生きてるから!」
すごいな。田崎君。全部自分で払ってるんだ。学食で話聞いたら、バイトいくつも掛け持ちして賄ってるみたい。なんか私も頑張らなきゃな。
それからも私たちは仲良しだった。田崎君の真っ白なシャツが半袖になってしばらくしたころだ。
「テストだねーもうすぐ」
「ああそうだね。しっかり勉強しなきゃ。」
「田崎君かしこそうだよねー、いっつも講義前の方の席で受けてるし。」
「それは関係ないさ、けどいいい点数とらなきゃ奨学生じゃなくなっちゃうから」
「え!田崎君って学力の奨学生なの?」
「うん一応ね。あはは。入試の結果が良かったみたい。」
すごい田崎君。この大学って割と偏差値も高いし私もそれなりに苦労して入った大学なのに、ここで学力特待なんて。なんか、友達だけど心から尊敬しちゃうな。
テスト勉強もしないといけないけど、今日はカフェでゆっくりしたいから出かけよう。あそこにある落ち着いたカフェに決めた。
あ、コーヒーおいしい。うん。ぼーっとできるっていいな。
田崎君は今も、バイトか勉強かしてるのかな。どうやったらあんなに一人で頑張れるんだろう。私なんか、一人じゃ何にも頑張れないしな。比べるものじゃないのかもしれないけど、私のほうが田崎君より暮らしやすい環境にいるのに、なんで彼のほうが頑張ってるんだろう。自分が情けなくなるし田崎君のこと本当に尊敬する。今度二人でゆっくり話したいな。テスト終わったら誘ってみよ。
「ふーーー、やっと終わったねテスト」
「うん!どうだった?テストのできは」
「田崎君には及ばないけどそれなりに頑張れたよ!」
「そんなことないさ!お疲れ様。」
「あ、田崎君。よかったらこの後ご飯でも行かない?」
「今日はバイトもないからいいけど、お金がな、、、」
「任せて!テスト期間中にたくさん教えてもらったからそのお礼!」
「ほんとに?じゃあお言葉に甘えて」
「うんいこ!」
「ここイイ感じのカフェでしょー。私が見つけたんだ。何頼む?」
「うん落ち着いていて、とてもいい!うーん、タコライスにする」
「お、変わってるねなかなか。私はカルボナーラ」
「おいしいね!おいしい!」
「うん!すごくおいしい!マイコちゃんが見つけただけあるね」
「そうでしょ!」
「うん、それで今日はなんで誘ってくれたの?」
「単純に田崎君ともっと話してみたかったんだ」
「僕と?」
「そう。田崎君と出会ってから、頑張ってる田崎君見てると、私って何してるんだろうって思うの。田崎君は勉強もバイトも一生懸命頑張ってるのに。私はそれなりにしか勉強もできないし、正直、お金に困っているわけではないからバイトもあんまり入ってないし。田崎君はすごいなーって思うの。一人で頑張ってるのすごいなって。」
「それはありがと。あはは。けどね、マイコちゃんはちょっと僕のことを勘違いしてるよ。確かに僕はお金に余裕がないからたくさんアルバイトをしないといけない。そう。やらないといけないからしてるだけ。けど勉強は違うんだ。将来何がしたいかなんて決まってないし、つきたい職業もない。だからなんにでもなれるように勉強してるわけでもないんだ。ただ単になかなか友達がいないから勉強してるだけなんだ。」
「えっ?」
「それに君は僕をすごいって言ってくれるけどね、僕はマイコちゃんのほうがすごいと思うし、うらやましい。素敵な友達に恵まれているし、ポジティブだし、初対面の人にも明るく話しかけられるじゃないか。僕が初めてマイコちゃんと話したときみたいに。だから僕は君に憧れている。そしてあこがれの相手がいつも僕に話しかけてくれるんだ。こんなにうれしいことはないよ。」
「そんな、私なんて憧れられるところなんてないよ。」
「そんなことないよ。それに僕は君に出会って変われたよ。笑顔で人に話し返せるようになったんだ。君といるとできるようになってたんだ。」
「そしたら私だって、田崎君に出会ってすごいなって思えたから、毎日講義も頑張れたし、テストも奮闘できたよ。」
「そうなんだ。あはは。僕らってとっても素敵な友達だね。」
「うん。そうだよ!お互いに成長できるからね!」
「今日は誘ってくれてありがとう。なんかすごくすっきりしたよ。正直君のことを知ってから、劣等感を感じることも多くあったんだ。」
「それは私もだよ。」
「けどそのおかげで成長できたんだね。」
「そうだね!これからも仲良くしてね!」
「もちろん!」
また田崎君の真っ白なシャツが長袖になって、すごくシンプルなコートを着る季節になった。
また田崎君の真っ白なシャツは半袖になって、また、長袖になった。
今、田崎君は真っ白なシャツに真っ白のタキシードを着て私の隣にいる。
少し離れたテーブルでアキコが顔をくしゃくしゃにして泣いている。うれしいのか悲しいのかわからない。
近くのテーブルには田崎君のご家族がいる。すごく年の離れた妹さんが田崎君のことをキラキラした目で見ている。
今では、田崎君のために私がおにぎりを握っている。大手企業に勤めて、年齢以上のお給料をもらってるのに田崎君はおにぎりを作ってと頼んでくる。子供に自分みたいな苦労をさせたくないからたくさん貯金しておくらしい。
今でも私たちは、田崎君、マイコちゃんと呼び合う。
今でこそ夫婦ではあるが
今でも私たちは、お互いに尊敬しているから。
素直に、真っ白に。