diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

第三十五話 退屈な男4

今日もいつも通り出勤。

8畳ほどの敷地面積をもつ店舗に1人で立ち右から左、左から右へと流れていく「お客様」に「いらっしゃいませ」を言うのがオレの仕事。

 

ではなかった。


古びれたデパートの地下で日本人に馴染みのない「トルティーヤ」を売るのが仕事。

オレはオーナーじゃない。

オーナーから

「近頃の売上の落ち込みは、従業員が"いらっしゃいませ"を言わないからだ」

と言われたので、

「いらっしゃいませ」を言うことに重きを置いて働いている。

 

右から客がやって来た。言うまでもなく、「うちの店」には止まらない。

 

 「いらっしゃいませ」

 

6時間勤務がオレの基本。スーパーで1080円で買った腕時計を見てもまだ20分しか経っていない。

 

右から客だ。

 

なんて世の中の男性は愚かなんだろうか。世の中の男性たちは皆、自分が一番だと思っている。自分は相手よりもどこか優れていると思っているし、どうせ自分は何でもできてしまうと思っている。愚かだ。そんな愚かな男性よりも私の方が優れている。偏差値の高い高校から、偏差値の高い大学へと進学した。学生のうちに他の学生よりも好奇心旺盛に講演会やビジネスイベントにも参加した。就職活動においても自分の第一希望の企業に就職することができたし、今では理想の通りの男性に出会いお付き合いができている。私より充実した人生を送っている人はいるのだろうか。ああ、世の中の男性は愚かである。

 

「いらっしゃいませ」

 

危ない。デパ地下は私の庭と言わんばかりに闊歩している、実際は低いのに鼻高々に歩く女性が店の前を通るものだから、ひねくれまくった結果、自分のことを棚に上げまくる性格の女性かと想像してしまったじゃないか。集中しよう。

 

今度は左から客だ。

 

このおしぼりはどんな匂いがするんだろう。クンクン。

ああ、あのカフェと同じ洗剤を使っているなここは。

最速メニュー枝豆の登場か。まあ、焼き鳥たちが来るまでのあてにしよう。

クンクン。うん、どこにでもある枝豆の匂いがするな。さあ食べよう。

フライドポテトが来た。手が油で汚れてしまうのは嫌なので割り箸で食べよう。

パキッ。クンクン。うん、他と大差ない割箸の匂いがする。

さあ、一杯目のビールも空いたことだし焼酎でも頼もう。

よし、焼酎が来たな。クンクン。うん、特に焼酎の匂いが好きなわけではないが、いつも通りの匂いだな。

あ、やっと焼き鳥が来た。クンクン。

 

「いらっしゃいませ」

 

危ない。各店舗の前を通るたびにクンクンと匂いを嗅いでいる男が店の前を通るもんだから、たまにいる何でも匂いを嗅いでから行動を起こす人の仕草を想像してしまったじゃないか。業務に集中しよう。

 

今日もまだまだ続くな、、、。