diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

退屈な男 3

 

今日もいつも通り出勤。8畳ほどの敷地面積をもつ店舗に1人で立ち右から左、左から右へと流れてい「お客様」に「いらっしゃいませ」を言うのがオレの仕事。

 

ではなかった。


古びれたデパートの地下で日本人に馴染みのない「トルティーヤ」を売るのが仕事。オレはオーナーじゃない。オーナーから

「近頃の売上の落ち込みは、従業員が"いらっしゃいませ"を言わないからだ」と言われたので、

「いらっしゃいませ」を言うことに重きを置いて働いている。

 

右から客がやって来た。言うまでもなく、「うちの店」には止まらない。

 

 「いらっしゃいませ」

 

6時間勤務がオレの基本。スーパーで1080円で買った腕時計を見てもまだ20分しか経っていない。

 

右から客だ。

 

なんてうちの子はかわいいんだろう。みんな母性本能ってやつは持ってるだろうし、我が子が1番なんだろうけどうちの子はもっとかわいい。もうすぐ4歳になる愛しの息子が欲しいものなら何でも買ってあげるわよ。この子に将来彼女なんかできたら、私生きていけるかしら。けど彼女ができること自体は仕方がないから、そうだ。私が彼女候補を選ぼう。どこか会場を借りて、ウォーキングから日本語の使い方、スタイルに、におい、なにからなにまで選別しよう。それに、どんな親かも判断しなきゃだわっ。変な親の義理の息子になって欲しくないもの。

 

「いらっしゃいませ」

 

危ない。デパ地下の食品ショーケースのガラスをぺたぺたと触りまくりながら歩く息子に注意もしない母親が店の前を通るもんだから、考えたくもない母親の息子に対するイメージを思い描いてしまった。集中しよう。

 

今度は左から客だ。

 

「お客様こちらはですね、今シーズン流行りの柄になってるんですよ。良かったらご試着も出来ますのでお声かけください。」

「あ、はい」

なんなんだ。呼んでもないのに接客してくる服屋の店員。そんなに店から出て行って欲しいのか?売上伸ばしたいなら、静かに立っといてくれよ。

「あ、今ご覧になられてるシャツは当店一番人気のものになりますよ〜。かわいいですよねこのシャツ。」

「あ、はい。」

なんなんだ。一番人気の服ってことは着てるやつが多いってことだろ。それを勧めてくる店員って何なんだよ。あなたは個性が没落していますよね。ですから一番人気の服をどうぞってことか?それに、かわいいですよねってなんだよ。別におれは洋服にかわいさなんか求めてない。かっこよさを求めてるんだよ。そういえばいいと思ってるだろ。

 

「いらっしゃいませ」

 

危ない。それどこで買ったんだよっていうような柄シャツを着た男が、ひねくれた目線でデパート従業員たちを見ているから、彼の思考回路に潜入してしまった。業務に集中しよう。

 

今日もまだまだ続くな、、、。