diary-sentencesのブログ

日々たらたらと小話的な物語的なのを書きます。

2019-01-01から1年間の記事一覧

第十二話 ジャガイモ

ケビンはいっつも僕にジャガイモの話をしてくる。ケビンの実家は代々ジャガイモ農家らしい。ケビンは名前でもわかるように、日本人ではない。アメリカのどこか出身だ。広大な土地で日本では見慣れない、細長くて大きいジャガイモを栽培しているようだ。 ケビ…

第十一話 ワイン酒場

駅前に新しくできた居酒屋は評判がいい。居酒屋だが、500円でおいしいワインが飲めると話題だ。店自体はそこまで大きくなく、カウンターが5席、テーブル席が4つだ。店主の親父はとても人柄がよい。陽気でいつもお客たちに元気を与えている。身長が高くて、…

第十話 続き

「あなたも僕と昨日タクシー相乗りしましたか?」 つい焦って、不自然な日本語になってしまった。 「はい!昨日はお金まですみませんでした」 「いえいえ、酔っ払っていてあまりはっきり覚えてないんです」 「そうなんですか!?そうは見えませんでした。では改めて…

第九話 続く

安売りしているペットボトルのお茶も意外とおいしいと思ったのは間違いだった。エアコンの無いこの6畳一間に暮らしている俺が、真夏の昼過ぎに起きて飲んだそれは茶葉ではなくて段ボールから淹れたんじゃないかという味だった。大切なのは温度なのだろうと…

第八話 白なんだゼ

とろりと溶けて、びよーんと伸びる?? あんな塩分を多く含んだ加工食品に人が群がるなんて 考えられないゼ。 もちもちの食感と、ティーの甘さ?? あんな外国からの刺客に影響を受けてしまう人間なんてどうかしてるゼ。 日本人は黙ってオレたちを食えばいい…

第七話 真っ白

ついに入学式の日かあ。友達出来るかな。地元から離れた大学だから高校の友達もいないし。まあしっかり明るくしていよう。学科の説明会は学籍番号順で座るのか。隣の人はどんな人なんだろう。緊張するな。 「あ、お名前なんて言うんですか?」 「田崎です。…

退屈な男 2

今日もいつも通り出勤。8畳ほどの敷地面積をもつ店舗に1人で立ち右から左、左から右へと流れてい「お客様」に「いらっしゃいませ」を言うのがオレの仕事。 ではなかった。 古びれたデパートの地下で日本人に馴染みのない「トルティーヤ」を売るのが仕事。 オレはオ…

第六話 靴屋の秘密

ワレは靴屋の店主だ。あんこの生産量日本一の町にある、さびれた商店街で靴屋を営んでいる。ワレはもう63歳。お母さんはワレの一つ下だ。お母さんというのはもちろんワレの嫁のことだ。もうこの年になると名前で呼ぶのも恥ずかしいし、おい嫁とかおい妻とか…

第一話 たばこ

そもそも束子(たばこ)が俺にアレを渡したのが良くなかった。綺麗であって欲しかった。 束子は初恋の相手だ。束子とは、古びた地元の商店街の靴屋で出会った。靴屋に来るまでに同じルートを来ていたらしい。お互いに、商店街で唯一賑わっているパン屋のあん…

第五話 女の子の弟

ぼくには一つ上のお姉ちゃんがいる。お姉ちゃんは今、小学5年生。ぼくはサッカーを習ってるけどお姉ちゃんは習い事をしていない。それなのにお姉ちゃんの帰りが僕よりも最近遅いんだ。パパやママはそんな心配していないし、ぼくも心配していない。しっかり外…

第四話 秘書 芳田

私は秘書だ。どんな方の秘書をしているかは言えないことになっている。私の名前は芳川。よしかわと読む。吉川ではない。よく書き間違えられる。24歳までは書き間違えられる度にイライラしていたが、そんなことに脳みそを使ってしまうのは勿体ないと気づき、…

第三話 ホテルのオーナー

私は経営者家庭に生まれた。父は八ツ星ホテルのオーナー。母は七ツ星ホテルのオーナー。そしてこの家の長男として生まれた私も今では五つ星ホテルのオーナーだ。次男はこの堅苦しい家庭のせいか、高校の時にグレてしまい、両親の意向に背き、今では三ツ星イ…

退屈な男 1

今日もいつも通り出勤。8畳ほどの敷地面積をもつ店舗に1人で立ち右から左、左から右へと流れてい「お客様」に「いらっしゃいませ」を言うのがオレの仕事。 ではなかった。 古びれたデパートの地下で日本人に馴染みのない「トルティーヤ」を売るのが仕事。 オレはオ…